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アパレルから海苔屋へ。4代目当主が目指すのは、感動を生み出せる海苔屋【ぬま田海苔 合羽橋本店】

ある日、noteを見ていたときのこと。「かっぱ橋」という文字が目に飛び込んできて、おや? とスマホを繰る手を止めました。

食にまつわるお店が軒を連ねる「かっぱ橋道具街」。浅草で生まれ育った私にとっては馴染みのあるエリアですが、そこにどうやら新しく海苔屋さんがオープンしたらしい。へぇ、1937年創業? かなりの老舗だけど、noteをやっているなんて珍しいな。ふむふむ、4代目がお店を継ぐタイミングでかっぱ橋に店舗を構えたのね……。

記事を読んで興味が湧き、WebサイトやInstagramを見てみると、「老舗の海苔屋さん」のイメージとかけ離れたおしゃれなパッケージや内装に驚きました。バターやチーズとのペアリングを提案していたり、店頭では海苔の食べ比べもできるとか……!

何だか普通の海苔屋じゃなさそうだぞ??!!
と気になったので、「ぬま田海苔 合羽橋本店」へ取材に行ってきました!

こだわりを持つ食のプロが集まるかっぱ橋で、海苔のストーリーを伝えたい

――ぬま田海苔さんは、もともと川崎で創業されたんですよね。

ええ、1937年に祖父が川崎で創業しました。以前は母が1人で切り盛りしていたので、昔からの常連さんからの注文を電話やFAXで受けて販売する、というこぢんまりとした規模でやっていました。

――沼田さんがお店を継がれたのは、どういう経緯だったんですか。

母も元気とはいえ高齢なので、今後お店をどうしていくかを考えないと……ということで、家族みんなで話し合ったんです。
うちは姉と妹、そして弟の4人兄弟。小さい頃から海苔を食べて育ってきて、みんな海苔が大好きなんですね。でも一般的には、「海苔ってどれも同じ味なんじゃないの?」「自分では買わない」という人がほとんどで。

その中でも海苔の味にこだわって、うちで買ってくださるお客様に対してもこれからも海苔を届け続けたいし、もっと海苔のおいしさを広く世の中に伝えていきたい。「やっぱり、お店は続けていきたいよね」というのが家族の総意でした。

ーーそれで、沼田さんがお店を継ぐことになったんですね。

ええ。長男の私が4代目を継ぐことになって、昨年の5月にかっぱ橋に店舗を構えました。基本的には母と私の2人で運営していますが、姉や妹もお店を手伝ってくれますし、レザー製品のブランドを経営している弟の会社がWebや製品周りのデザインをサポートしてくれているんです。家族みんなで協力し合いながら、お店のリブランディングを進めています。

――かっぱ橋にお店を構えようと思ったのはどうしてですか?

かっぱ橋は、こだわりを持つ食のプロが集う町だからです。今って、Webでなんでも揃う時代じゃないですか。その中でわざわざ足を運んで買いに行こうと思うのは、ただ物が欲しいだけじゃなくて、物にまつわるストーリー性を大事にしている人たちだと思っていて。
私たちは、海苔の歴史や生産者の思いといったストーリーも含めて海苔のことを伝えていきたいので、かっぱ橋ならそれができると思って選びました。

――ぬま田海苔さんで扱っている「有明海産の初摘み海苔」というのは、どういう海苔なんでしょうか。

毎年秋に海苔の摘み取りが行われるんですが、年に10〜20回ほど行う摘み取りの中で、最初の1週間で摘んだものが「初摘み海苔」です。
海苔は海のもの、というイメージかと思いますが、実は川から流れてくる山のミネラルも豊富に含まれているんです。初摘み海苔は、有明海のミネラルと川から流れてくる山のミネラルを、1番最初に吸収して育った海苔なんです。口どけが柔らかくて、旨味もたっぷりなんですよ。

――そうなんですね! 聞いているだけで何だかヨダレが……(笑)失礼ながら、海苔ってどれも似たような味なのかと思っていて。

みなさんそうおっしゃいますね。でも、同じ有明海で取れたものでも、漁場によって味がかなり違うんですよ。うちでは海苔の食べ比べをやっているんですが、食べた方はみんな「海苔ってこんなに味が違うの?!」と驚かれますね。あとでぜひ食べ比べも体験していってください!

――ありがとうございます、ぜひ!

販売員の仕事は、商品の魅力を伝えること。そこは服も海苔も変わらない

――沼田さんは、海苔屋さんを継がれる前は、アパレルに勤められていたんですよね。

ええ、大学生のころからGAPで働いていました。アルバイトでも売り場づくりに積極的に意見を出すことができるし、スタッフもみんなオープンマインドで、すごく風通しのいい会社で。最初は社員になるつもりはなかったんですが、働くうちにだんだん「ここで自分の力を試したい」と思うようになって、そのまま就職しました。学生時代からトータル17年ほど働きましたね。

――同じ販売職といっても、アパレルから海苔屋というのはかなり振り幅がありますよね。大変なことはありましたか?

よくそう聞かれるんですけど、感覚としては同じですね。販売員の仕事って、お客様に商品の魅力を伝えることだと思っていて。商品の良さを理解して、魅力を伝えて提案していく……という一連の流れは、服も海苔も同じなんです。

「商品の良さを理解するには自分で体感することが大事だ」という思いが昔からあって、アパレル時代にはとにかくたくさん試着をしていたんです。新作はもちろんのこと、同じTシャツでも生産地によってフィット感がほんの少し違うので、すべて着て違いをチェックしていました。

――生産地……ですか?! そこまでマニアックに追求するのはすごいですね(笑)。

この間アパレル時代の同僚がお店に遊びに来てくれたとき、「生産地までチェックしていたのは後にも先にも沼田さんだけですよ!」って笑いながら言われました(笑)。自分は、天才肌ではないので……人よりも結果を出すために泥臭く努力をして、隠れて引き出しを増やしていくタイプですね。

――海苔の試食もたくさんするんですか?

そうですね! 自店で扱っている有明海産のもの以外にも、なるべく色々なものを食べるようにしています。

パリッと固めのもの、柔らかくほどけるもの、青みが力強いもの……海苔の味わいは様々ですが、「どれが1番おいしい」というものではなくて。うちは初摘みを扱っていますが、海苔屋さんによっては初摘みじゃないものを好む方もいらっしゃるんですね。人それぞれおいしいと思う海苔は違うんです。「うちの海苔よりもおいしい/おいしくない」ではなくて、味わいがどう違うのかを考えながら食べるようにしています。

「有明海産・初摘み」にこだわりつつも、その中で幅広いラインナップを揃えて、色々な好みに対応できる専門店にしていきたいですね。

かっぱ橋はあたたかい人ばかり。月1で食事会も開催

――かっぱ橋のほかのお店の人と、ご近所付き合いはあるんですか?

1番最初に挨拶回りをしたので、ひと通りのお店と顔なじみにはなりました。
すぐそこの「世界の珈琲ユニオン」の店長が1番仲が良くて、よくしゃべりますね。
あとは、料理包丁専門店の「つば屋」さんは、オープン初日に1番乗りで海苔を買いに来てくれたんですが、その後も何かと良くしてくれて。有名なシェフが「つば屋」さんに来店したときに「あそこの海苔屋は寄ったほうがいいよ!」なんて勧めてくれたこともあるんですよ。そのご縁でうちの海苔をつかってくれるようになった飲食店もあって、ありがたいことですね。

――お店を勧めてくれるのは嬉しいですね! お店同士の交流もけっこうあるんですね。

でも実はかっぱ橋って、全体としては横のつながりは少ないんですよね。長くやっているお店だとわざわざ挨拶するきっかけもないから、隣のお店でもほとんどしゃべったことがない……なんてこともけっこうあるみたいで。
うちはゼロからのスタートだった分、挨拶回りでまんべんなく顔見知りになることができたので、ラッキーでしたね。
自分が1番ニュートラルな立場なので、「せっかくなら横のつながりを作ろう!」と思って、いま月1で食事会を開催しています。

――いいですね! 毎回どのくらいの人数が参加するんですか?

いつもバラバラですね。1番最初は「世界の珈琲ユニオン」の店長と2人で、そこから1人増え2人増え……という感じで徐々に増えてきました。偏りなく知り合った人はフランクに呼ぶようにしています。
かっぱ橋界隈のお店に行くことが多いんですが、お店の人に「かっぱ橋でお店をやってるんですよ」って言ったら、「行ったことあります!」って言われることもありますね。

――そういった交流の輪が広がるのは楽しいですよね。

楽しいし、ありがたいですね。ずっと会社員経験しかなかった自分が、土地勘のない場所でゼロからお店を立ち上げるってやっぱり大変なことなので。かっぱ橋はあたたかい人たちが多くて、ここにお店を出してよかったと思います。

海苔を食べてお客さんが涙、その理由は……?

――かっぱ橋という場所柄、観光客が多いイメージですが、地元の方もお店には来ますか。

地元の方もよくいらっしゃいますね。比率としては、地元の人が4割、日本人観光客が3割、外国人観光客が3割……という感じです。
近所に住んでいる方がお子さん連れで来てくださったり、浅草のほうで商売をしている人が自宅用に買って行ってくれたり。中には毎週来てくださる方もいるんですよ。

――リピーターさんも多いんですね。観光客で来店される方は、通りすがりの方が多いですか?

そうですね。でも最近は、うちを目当てに来てくださるお客様も増えてきました。少し前にテレビに取り上げていただいたことがあって、それを見て北海道や仙台、中には台湾から来てくださった方もいましたね。
あとは外国の方で、「友達が前にぬま田海苔に来たことがあって、日本に行くと言ったら『ぬま田海苔を買ってきて』と頼まれた」という方がいらっしゃいました。あれはびっくりしましたね!

――名指しですか、すごいですね! この方は特に印象的だった、というお客様っていますか?

去年の暮れに、オーストラリアに住んでいる日本人の女性が、うちにいらっしゃったんです。旦那さんがかっぱ橋出身で、2人で昔このあたりに住んでいたらしいんですよ。旦那さんはもう亡くなってしまったそうなんですが、久々に日本に帰って来たから……ということで、かっぱ橋を散策していたそうで。きっと、旦那さんとの思い出を振り返りに来たんでしょうね。

偶然うちの前を通りかかって、海苔屋だと分かると「海苔大好きなんです! 買って帰りたいから試食させて」と言ってくださって。食べ比べで色々お出ししたら、「おいしい、おいしい」とすごく感動してくれて、全種類の海苔を1袋ずつ買っていかれたんです。

――全部ですか、すごい……! それは嬉しいですね。

うちは2,000円以上買ってくれたお客様にはその場で焼いた海苔をプレゼントしているんですが、焼いた海苔を1枚お渡しして食べていただいたんですね。そしたら、食べているうちにその方が泣き出してしまったんですよ。
びっくりしていたら、「昔家でこうやって海苔を焼いて食べていたな……と懐かしくなって」とおっしゃって。旦那さんと一緒にかっぱ橋で過ごした時間が蘇ってきて、泣いてしまったそうなんです。そんな話を聞いていたら、私ももらい泣きしてしまいました。

――聞いている私ももらい泣きしそうです……。

お店を始めたばかりの頃には、海苔を通してこんなふうに人を感動させることができるなんて思ってもみませんでした。
その場で海苔を焼くって、売上に直接繋がることじゃないんですよね。でも、昔は生の海苔を買って自宅で焼いて食べることも多くて、焼きたての海苔を食べると「懐かしい!」と言ってくれる人もたくさんいるんです。
うちは海苔屋ではありますが、海苔を売る以上のことをもっとしていきたいと、改めて思った出来事でした。

――今後、お店を通して海苔をどんなふうに広めていきたいですか。

お店はもちろん、noteやSNSなどネットでの発信などを通して、海苔に対しての考え方を変えていきたい、おいしさを伝えていきたいと思っています。
今って、自分で海苔を買ったことがない人も多いですし、どれも同じ味でしょって思っている方がほとんどで。でもそれは、海苔屋がおいしさをうまく伝えられていなかったせいでもあるんですよね。
極端な話、うちで海苔を買わなくても、考え方を変えてくれるだけでもいいと思っていて。もちろん買ってくれたら嬉しいですけど、それよりも「海苔のことをもっと知って欲しい」という気持ちのほうが強いですね。

――海苔のことを伝えていきたい、というのが1番にあるんですね。

家でご飯を食べるときにおいしい海苔があると、生活が豊かに感じられるというか、「幸せだなぁ」って思うんですよね。この幸せをみなさんにもぜひ味わってもらいたくて。とくに若い人に、もっと広まればいいなと思いますね。海苔に対してのイメージを変えたいし、魅力を伝えていきたい。そのために、色々な提案を続けていきたいと思っています。

終わりに

取材の終わりに食べ比べをさせていただきましたが、「これは甘さがあって口どけがまろやかで」「こちらは先ほどのものより青みがあって」と、的確に味の表現をされる沼田さんが印象的でした。

海苔の味の違いはとても繊細で、たとえば塩と砂糖のように、ものすごくはっきりとした違いがあるというものではありません。つまり、1つ2つ食べただけで「これは甘い/塩気がある」などと容易に表現できる代物ではない、ということ。「良さを伝えるには体感することが大事」というこだわりを持って、海苔をひたすら食べて味わいの違いをご自身の中に大量にストックしている沼田さんだからこそできることだと感じました。

購入した3種食べ比べセットは、その日の夕食に。バターやチーズとのペアリングを楽しむためにいそいそと買い出しに行き、リーフレットを読みながら自宅で海苔の食べ比べをするのは、とても心踊る時間でした。

おいしい海苔があるだけで、毎日の食卓が少し豊かになる。そんな体験をしたい方はぜひ、ぬま田海苔さんへ足を運んでみてくださいね!

この記事を書いた人

中村 英里(Eri Nakamura)
浅草出身・東京在住のフリーライター。趣味はイラスト、写真、純喫茶めぐり。「近場でちょっと足を伸ばすお出かけ」が好き。おさんぽWebマガジン「てくてくレトロ」を運営しています。

てくてくレトロ:https://tekutekuretro.life
note: https://note.mu/2erire7
Twitter:https://twitter.com/2erire7
Official Web:https://2erire7.com/

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